奥ノ院形石燈籠 全高は11尺(約3.3メートル)
この石燈籠は、愛知県岡崎産の花崗岩、通称「三州石(さんしゅういし)」が用いられた 奥ノ院形石燈籠である 。 奥ノ院形石燈籠は、古来より日本庭園や寺院の境内などに設置されてきた、伝統的な石燈籠の一形式である。その名が示すとおり、「奥ノ院」とは寺院における最も奥まった神聖な区域を指し、特に奈良県・春日大社の奥ノ院がその名称の起源とされている。 この石燈籠は、厳粛で静謐な空間を象徴的に演出する存在として発展し、今日に至るまで、格式ある庭園や聖域的な空間にふさわしい意匠として親しまれている。笠は六角形で、蕨手(わらびて)付きの装飾が施されている。形状は重厚かつ力強く、全体に堂々とした印象を与える。火袋も六角形であり、側面には唐獅子や牡丹、あるいは七福神など、吉祥を象徴する精緻な彫刻が施されることが多い。彫刻の内容には石工の高度な技術と信仰心が反映されている。中台も六角形であり、奥ノ院形石燈籠における最大の特徴とされる。天端には「返花(かえりばな)」の意匠が彫刻されており、側面一面を二区に分け、それぞれに「十二支(干支)」の彫刻が施されている。竿は丸竿形状で、下部には六角形の基礎石が据えられている。さらにその下に、全体の安定を保つための基壇が設けられる構成である。 三州石は錆系の軟質な花崗岩であり、温かみのある風合いが特徴であるが、軟質ゆえに凍害に弱く、降雪量の多い地域や気温の低い地域には不向きとされる。彫刻には機械的な加工の跡が見られず、手彫りによる繊細な技法が確認されることから、濵元家の歴史的背景を踏まえても、大正時代から昭和初期(戦前)にかけての製作・設置と推定される。また、この燈籠の全高は11尺(約3.3メートル)にも達し、一般的な石燈 籠と比較しても最大級の規模を誇る。もちろん、濵元家が所蔵する燈籠の中でも最大であり、その存在感と荘厳さは圧倒的である。現代においても、奥ノ院形石燈籠はその象徴性と美術的価値から、和風庭園の奥まった一角や、枯山水庭園の静かな空間、あるいは神仏の気配を感じさせる場に設置されることが多い。その存在は、単なる景観装飾にとどまらず、空間全体に神聖な緊張感と格式をもたらす、いわば「庭の精神的中核」とも言える役割を果たしている。 (2025年4月:京都の北山都乾園コメントより抜粋)